Talk w/z 珠子【3】

【3】仕事とお金、作品の強度

生きていく上で、自分も楽しく、人も楽しくできるのは、作ることなんだなって思ったんですよ。(珠子)

珠子:なんかこう、自分の好きなことをやってお金をもらうことに、罪悪感があったんですよ。仕事っていうものは辛く苦しいもので、だからこそお金をもらっているという意識があって。
miqui: うん。わかります。
珠子:結構長いこと、思っていたんですよね。で、…これを言おうと思って。(紙を取り出す)ミヒャエル・エンデの、経済についての独自の考えがあって、特にね、ここから下を読んでいただきたいんですけど、
miqui: はい。
(黙々と読むsugiuraとmiqui)

ミヒャエル・エンデ: ドイツ文学作家。児童文学作家。代表作は「モモ」「はてしない物語」など。産業革命以降のマテリアリズム、すなわち物質主義を対象として、現代を批判する視線を持ち続けた。芸術家の使命を意識することで、批判のみに終わることなく、マテリアリズムとは対極にある「創造性」という、人間のみに与えられた力を、様々な作品の中で伝えている。著書以外に対談も多く、特に経済に関する独自の考え方によって、哲学者としても知られている。

ここから下を読んでいただきたいんですけど、: 紙に書かれていたことは下記。
エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 河邑 厚徳+グループ現代著 NHK出版 P76より引用
 人間は三つの異なる社会的レベルのなかで生きています。誰もが国家、法のもとの生活に属しています。生産し、消費する点では経済生活のなかで生きています。そして美術館も音楽会も文化生活の一部ですから文化生活も誰もが行っていることです。この三つの『生の領域』は本質的にまったく異なるレベルです。今日の政治や社会が抱える大きな問題は、この三つがいっしょにされ、別のレベルの理想が混乱して語られている事です。・・・・・・
 フランスの革命のスローガンである『自由・平等・友愛』は革命前からある言葉で、もとはフリーメーソンのスローガンにほかなりません。この三つの概念は、いま話した三つのレベルに相応します。すなわち、自由は精神と文化、平等は法と政治、そして今日ではまったく奇異に聞こえるのですが、友愛は経済生活です。工業社会は誰もが他人のために仕事をしたほうが社会全体の益になると考える社会なのです。仕立て屋は自分のスーツをつくるのではなく、他人のスーツをつくり、皆が自家製のパンを焼くより、パン屋が他の人のパンを焼くほうが、経済的に安上がりなのです。そうしたほうが、万人の欲求を満たすのに有利になるのです。こうして仕事は分けられます。誰もが他の人のために働くことは友愛にほかなりません。

珠子:経済が友愛だっていう、この話。これを読んだ時に、自分が楽しくて得意なことをしているのが、結局、みんなに対して一番いいんだっていうことが分かって。だからこそ、お金をもらってもいいんだって、思ったんですよ。
miqui: ああぁぁ!うんうんうん。
珠子:なんていうか、これを読んですごくスッキリしたというか。得意なことというのは結局、例えばパンを焼く人は好きだから得意になるし、得意だと上手に美味しいものが焼けるじゃないですか。魚釣りが好きだと、沢山釣れるのが楽しくて、色々工夫するようになるし、そうするともっと沢山釣れるようになる。そのパンと魚を交換する事によって、みんなが楽しく豊かになる。これが逆だと悲惨なことになるんですよね。パン焼きたいのに、ってイライラしながら魚釣りしても楽しくないし、工夫しようという気も起きないと思うんです。反対に、魚釣りしたいなあと思いながらパンを焼いている人は、集中力が散漫になって失敗が多くなったり、おいしくないものが出来て、嫌気が差したり。楽しい時間を過ごして沢山の魚とおいしいパンを物々交換するのと、楽しくない時間を過ごして、少ない魚と失敗パンを交換するのと、どっちがいいですか?っていう話なんですよね。ああ、そういうことなんだ、そんな単純なことだったんだ、っていうことに気付いたんです。だから、辛くて苦しいからお金をもらうというのは、間違いだって思って。
miqui: なるほどね!なるほどね!私も、結構仕事って、辛くて苦しいもので、音楽は楽しくてやりがいのあるもので、自分のためにもなるって、生きる糧だって思っていたの。でも、そうかも。あの、うん、そうなんだと思います。自分が本当に、得意で、才能があって、できることで、お金がもらえるんだったら、それが一番ナチュラルだし、
珠子:そうなんですよ。結局それが、一番の社会貢献だと思うんです。だから、好きなことをしてお金をもらうこと、例えば作品を作って売ることもそうなんですが、そのこと自体に非難めいた物言いをする人もいますが、
miqui: お金をもらうこと自体がけがらわしいって言う人、いますよね。
珠子:作品がけがれてしまうとか、崇高なものじゃないって言い切ってしまう人もいるけれど、それは何となく違う…と思いながらも、でも言えない自分がいて。「そうだ!」って言われた時に、
miqui: 言い返せない。
珠子:言い返せない。そう。私は別にあまりそこに執着しないというか、特に何も思っていなくて、次の材料費になれば嬉しいかな、位にしか思っていなかったんですけど。でも「崇高なものじゃない」って言われても何もいえなくって。確かに資本主義の側面って、単なる物々交換の代替ではない部分があるじゃないですか。その部分が強調されて、ネガティブなイメージがお金についてまわっている気もするんですよね。だから、作品をお金で売るなんて…!みたいな考え方になってしまうのかな、と思うんですけど。でも根本的には、お金そのものは1つの便利なツールにすぎないと思うんです。お金っていうのは豊かさの循環なんだなって、これ読んだときに、なんかすごくスッキリして。別に、まぁ(ネガティブに)思っている人は思っていればいいじゃんって。ただでも、自分が生きていく上で、自分も楽しく、人も楽しくできるのは、作ることなんだなって思ったんですよ。ほんと、シンプルに。で、そこで、(好きなことをしてお金を貰う罪悪感や負のイメージを)あまり思わなくなったかなっていう。
sugiura: なるほどなるほど。
miqui: うん。どうしても、その「お金になること」っていうのは、自分の「我慢料」みたいな…
珠子:そうなんですよ。我慢料だと思っちゃってたんですよ。
miqui: だし、そういう風に言われ続けてきたような気がする。だから、辛いことも我慢して、仕事しなければいけないっていう。「あなた、お金もらってるんでしょ?!(それなら我慢しなさいよ)」っていう…そこがまずスタートラインにあってっていう。
珠子:そういう、(親や社会からの)変なスリ込みってあると思うんですよ。
miqui: あります。
珠子:でも、ようく考えてみると、それって違うんじゃない?っていうのが、実は色々あると思うんです。私、それまでほとんど読んだことのなかった分野の本、自己啓発書とか哲学書、経済書とかにハマった時期があって(笑)、色んな本を読んでいくうちに、すごくいい言葉や考え方、納得できるものを見つけて。かなり楽になれた部分があるんです。これ(紙)もそのうちの一つなんですけど。だから、当たり前って感じでスリ込まれているものでも、ひとつひとつきちんと自分で答えを見つけていけば、もっと楽になれると思うんですよね。
miqui: すっごく分かります。

経済書: 珠子さんおすすめの経済書を紹介していただきました!

エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 河邑 厚徳+グループ現代著 NHK出版
今まで経済に興味のなかった方にも、是非読んでもらいたい一冊。難しい知識は必要ないので、尻込みせずに、どうぞ手に取ってみてください!読み終わったとき、初めて目が開いたような気分になります。(珠子)
マネー―なぜ人はおカネに魅入られるのか ベルナルド リエター著 堤 大介訳 ダイヤモンド社
「エンデの遺言」を面白いと思ったら、是非この本も読んでみてください。神話・心理学などを絡めながらお金のことを深く掘り下げています。まるで小説のような面白さ。(珠子)

珠子:で、私の場合、どんなに掛け離れた分野の本を読んでいても、必ず作ることに還元されていくんです。今回のように、作る事に対する障害を取り除いてくれたり、とか。そうしていくうちにどんどん、次はもっといいものが作れる!っていう自信がついてきました。
sugiura: うちらに限らずさ、みんな得意なことをやればいいんだよね。
珠子:そうなんですよ。そんな、簡単なことだったんだ!って。
sugiura: アリみたいに、人間も遺伝子のカテゴリーがいくつかに分かれていて、あらかじめ、スポーティな仕事をやる人っているんだって。で、あらかじめ、モノを生産することが得意な人達がいたりって分かれているんだって。
miqui: 極端に言うと、農耕民族と、みたいな?
sugiura: うーん…
珠子:持って生まれた職業みたいなものがあるという感じですよね?
miqui: DNA的に?
sugiura: うん。だからその逆をやろうとしたときに、すごい矛盾が生じるんだと思うんだよ。
miqui: ストレスになったり…
珠子:そう。結局、得意でもないから、ろくに出来ないし、みたいなのもあったり。
miqui: なるほどね。
珠子:例えば、いやなことも含めて自分が全部何とかしなきゃいけない!と思い込んでたりするじゃないですか。でも、実は、自分の「いやなこと」が、人の「好きなこと・得意なこと」だったりもする。
miqui: そうなんですよね。
珠子:そしたら、その人に任せればいいだけの話なんだー!って。
miqui: そうなんですよ!
珠子:それが分かっていないから、なんか、疲れちゃうし、色々こう…
miqui: そうなんですよ。できないことは、やらなくていいんですよ!すごくシンプルな。私もsugiuraに言われて初めて分かったんですけど、やっぱり最初は、一生懸命、歌っちゃうんですよ。無理して高いキーを出そうとしたりとか、無理して何か…例えば10回歌って、歌えないのは、歌えないんですよ。その日に10回レコーディングしているのに、一回もいいテイクが録れないということは、歌えないってことになってしまうので、だったら「メロディを変えればいい」っていう。
珠子:す、すごいですね、その発想。
miqui: そういう発想になるんですよ。
珠子:それはやっぱり杉様の柔軟性というか、なんというか。この前おっしゃっていた、本質の話を思い出しました。…あるものを作ってから、壊して、再構築するっていう話を。私はあの後ね、すごく考えたんですね。あれはすごくいいことを聞いたと思って。自分の中でこう、すごく咀嚼して、噛み砕いて飲み込みたいと思って。

自分が行きたい方向じゃないけども、行ってみたら、案外いい景色があったなんてこともあったりする(sugiura)

sugiura: 自分でも完成すると「ああ!こうなったのか」みたいなところがあって。
珠子:sugiuraさんのその能力っていうのは、人とやるからこそ培われたのかな?って思う部分があるんです。自分ひとりで作業をしていると、基本的に予想外のものが来るという事は考えにくいじゃないですか。だから、(作品が)本質・核になる部分と周囲の遊びの部分から成り立っている、という意識がほとんどなくて。私がその構造に気付いたのは、ビスクをやってからなんですね。ビスクは粘土と違って、微妙な火加減で形が変わるんですけど、そうなったときに、ものすごい違和感があったんです。自分が最後まで決めた形じゃないって。人が見ても分からないかもしれないけど、自分ではもうめちゃめちゃになった!くらいな気がするんですね。特に最初はそれを強く感じて、もてあましていました。それが作品にも影響したりして…。で、なんでなんだろう?って、「なんでこんなにもグラグラして、今までのようにいかないのか」って考えた時に、その、sugiuraさんの言った「核」と「遊び」を分かってなかったことに気付いたんです。ガチッっと固めているから、一個でも壊される(違う要素が入る)とガラガラと崩れてしまう。そっか遊びが必要なんだ、遊びがあると多分どこかで調節できるんだってことに気付いたんです。
sugiura: 曲の強度の話ですね。
珠子:そう。強度の話です。作品の強度というか。sugiuraさんの強度とか再構築の話で、今までぼんやりと思っていたことが、頭の中でカチッとハマった気がしました。この話って、色んなことに共通していて、人間関係もそうだと思うんですよ。いつかまた誰かと何かをする機会があったら、今度はもっと上手く出来るかなって思います。いい話を聞かせてくれて、とても感謝しています。
miqui: (sugiuraに向かって)やったじゃん!
sugiura: ありがとうございます。
miqui: やったじゃんっていうか、よかったじゃん!
珠子:こちらこそありがとうございます。すごく、勉強になりました。
sugiura: なんていうかな、ゴールを決めてても、ゴールに辿り着くまでの工程が同じじゃないじゃないですか。その、山登りみたいなもので、何が起こるか分からない。予測不可能なところが、何かモノを作るときにはあるから、そこを自分が行きたい方向じゃないけども、行ってみたら、案外いい景色があったなんてこともあったりするっていう。それを楽しめるかどうかっていうことで。
珠子:そうですね、本当にその通りだと思います。で、それが楽しめるっていうのは、ゆとりがある、度量があるっていうことだと思うんですよ。やっぱりそこは、自分を大きくしないとできないところなんだと思って。
sugiura: 曲を、デモを作っていると、あらかじめおおよその曲が見えるものを最初にレコーディングするんですよ。それを後で差換えていくんですけども、全く違うものが入ってきたときに、新しいレイヤーが足されたときに、自分が想像していたものよりも、面白くなるときがあるんです。「あ、こういう可能性があったのか!」みたいな。それが、楽しいですね。
珠子:私もその楽しさを味わってみたい(笑)
miqui: (笑)

【4】2010年宇宙音の旅へ続く…


Talk List【全6回】
※掲載の写真はすべて、珠子氏によるものです。


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