Talk w/z eno【2】

【2】白いアルバムに赤と青の実験

eno: …TURBULENCEは到達点だったなぁ。デモ聴いた時に。あれはすげえなぁと。「星霜」(BAUDE-LAIRE2ndアルバム「致死量玩具」に収録)で出来ないことをヤラれたなぁって感じだったなぁ。
miqui: TURBULENCEね~。
eno: すっごいリバーヴかかってるけどね。スネアにね。…最高だよ。
sugiura: でも意外にドラムは簡単に録ってやってて、ドラムの単独の2ミックスに、コンプをマキシマムまでかけて…どっちかっていうとコンプによる残響音のほうが結構広くて、でもその他もギターもフェイザーがかかってたりするし…
eno: トレモロもあるし。
sugiura: トレモロもあるし、
eno: 左右飛び交ってるもんなぁ。広がりはすごいよね。
sugiura: あのステレオのフェイザーは、WAVESのGTRっていうソフトで、アナログというか、かけ録りはしてないんだよね。

WAVESのGTR: バーチャルギターアンプ、エフェクトソフトウェア。Fender、Marshall、Mesa/Boogie、Voxなどのギターアンプから、実際に出したようなギターサウンドに聞こえるよう、バーチャルに再現するソフト。sugiuraはPro Toolsのプラグインとして使用。
【関連サイト】
>>Waves GTR3(公式)

eno: 車で聴くとトリップするよ~。ハインリヒは。すごい音響空間。
miqui: そうだね~。車ね~。
eno: 車で聴くと面白い感覚だった。
sugiura: そういうなんか、シューゲイザー的な要素があるよね。若干ね。
eno: うん。

シューゲイザー:ロックのスタイルの1つ。甘やかなメロディラインと、ギターノイズ(轟音とフィードバック)を幾重にも重ねたサウンドにより、輪郭がぼやけていくような浮遊感を形成し、ノイズによって美しい印象を編み出しているのが特徴。うつむいて演奏する内省的なスタイルのバンドが多いため、Shoe(靴)を gaze(凝視)する人という意味で名づけられた。主なアーティストに、Cocteau Twins、Slowdive、MY BLOODY VALENTINE、COALTAR OF THE DEEPERSなどがいる。
「シューゲイザーが好きなわけじゃないのかも。マイブラ(MY BLOODY VALENTINE)が好きなだけで。」 by sugiura

sugiura: 最初の2、3曲目まで作ってた時はデジロック風の曲を作ろうという感じで進んでたんだけど、やっていくうちにどんどん、自由になってきちゃって(笑)、シューゲイザーありの、四分打ちありの、結構バリエーションが膨れてきちゃってね。で、やってるうちに面白いのがさ、インドっぽいの(ABANDON)とかあったでしょ?なんていうのかな…青い花との境界線もなくなってきちゃって。そういうコンプレックスがあったんだと思うんだよ、自分の中で。「青い花でやってきたことは、もうやらない」とか。「BAUDE-LAIREでやってきた重いリフは使わない」とか。色々制限があったんだけど。もう許せる時が来たっていうか。
miqui: しかも極めつけが、ART±MODE(Talk with Takashi参照)にもコンプレックスがあったんだよね。多分。
sugiura: あったあった。
miqui: で、デジロックもやりたくない!っていう。だから、そこは、会う人会う人、(エンジニアの)Mくんとかにも、「いや、sugiuraは、デジロック得意なんだから、そういうところでもっと羽伸ばしてやればいいのに!」って言われてたの。
eno: デジロックはデジロックなんだけど、多分、地球で言うと、多分階層が全然違うよ。青い花と、BAUDE-LAIREと、昔やってたART±MODEは、日本の関東でやってたバンドだとすると、青い花はアジアになったでしょ、ちょっとインドも入るよ、ひょっとしたらトルコも入るけど、ハインリヒはもう、宇宙行っちゃってるから。ちょっともう広がり方がすごいことになってるからな。
miqui: なるほど(笑)

eno: BAUDE-LAIREは宇宙観目指してたでしょ。歌詞も。まぁ「攻虐」時代からもうDNAや宇宙の神秘のほうまで行ってたけど、音に関してはそこまで、まぁバンドでやれることを、バンドの3人だけでやってたから、やっぱり地球を取り囲むほうの空間は無かったんだけど、ハインリヒはすごいことになってるな。環境音楽っていうかアンビエント感はすごい。
sugiura: 「流星群」って曲あったじゃん。「望郷」(BAUDE-LAIREアルバム「攻虐」に収録)とかさ、そこらへんとか。あそこらへんはそういうテイストがあったよね。
eno: あったけど、その未完成な部分と、荒さがよかったんですよ。ね。まぁオレが叩いてる時点でかなり荒かったし。
sugiura: でも3ピースのバンドであっても、いわゆるデータでトラックを作っていたとしても、ぶっちゃけイメージでしかないんだよね。そこは。聴いてくれてる人間がどんなフィルターに通すかによって見え方が全然違うから、そのイメージを、なんていうのかな…自分達で広げていって、いかに楽しめるか、っていう作業がライブなんじゃないのかな。
eno: だから、ジェラシーに近いな。ハインリヒの音の広がりは。
sugiura: あ、そう?
eno: あぁ、3年前に出来てなかったことがようやく出来たんだなぁっていう。
sugiura: それがなんで出来なかったっていうのかは、うーん…バンドという一つのレールをひいちゃうじゃない?それに添った内容で物事進めていこうとするでしょ。「これもやってもいい」「これもやってもいい」ってことではないじゃない。
eno: ないですね。
sugiura: そういう目線で見なくていいと思うんだよね、レールというものを。例えばジャズであったり、ドラムンベースであったり、「そういうテイストのもあってもいいんだな」って、もし思えてしまったら、より楽だったんだと思うんだよ。ようするに「ロックで重いビートだけでやっていくぜ!」と思ってしまった上で限定されてしまうじゃない?そこで。今またバンドやれば、そういったコンプレックスが外れた状態で出来るんじゃないかな?って思うよね。どうしてもリミッターをかけちゃうじゃない?

eno: うーん。ベース持つことでもかなり変わったと思うけど、本人は全く違うの?青い花でやっていたときのライブと、ハインリヒでベースを持ってやっているときと。
miqui: あ、全然違う!!
eno: 例えばもう、同じ曲やっても全く違うでしょ?
miqui: 同じ曲?
eno: 同じ曲をやったとしようよ。ベースもって。
miqui: 青い花を?
eno: うん。
miqui: あはは(笑)
eno: オレ、またそれも観てみたい。
miqui: あぁ!なるほどね。
eno: 竿をもって歌うって絶対違うでしょ。
miqui: 全然違う。
eno: 絶対違う。
miqui: でもね、不思議なのが、今のほうがより自然なの。なんか、あ、元々これが…
eno: そうだって!
miqui: そうなのよ!
eno: そうだってっ!!
miqui: そうなのっ!!っていうかね、一番最初にやっていたバンドで、私ギターボーカルだったのね。だから、竿を持ってやるっていうのが、元々やりたかったことだったのに、ずっとそれをやめてて。なんか…他に出来る人がいれば、その人がやったほうがいいかなって思ってたの。ベースもずっとやりたかったし。こないだ、その一番最初にやってたバンドのドラムくんとメールしてて、「カナメちゃん(miqui)はずっとベースやりたいって言ってたもんね!ついに叶えたんだね!」って言われて…それで思い出したんだけど。(笑)
eno: 知らず知らず、一周まわって原点に還って来てるじゃん。勇紀くん(sugiura)はフライングVを少年の時に持ってたし、ベースをやりたかったのも、自然に一周したよね。
sugiura: 総合すると、やりたかったことをやろうっていうのが、もう、根っこにあるもので…
miqui: すごいシンプルだね、そう考えると。
sugiura: そうそう。
eno: 同時に戻ったんだね。
sugiura: 歌い方なんかにしてもそうだよね。
miqui: そうだよね。歌い方もそう。もともとの、素の。
eno: 力みは全く無い。
sugiura: レコーディングの時とかも、例えばサントラでやる場合は、ある程度ムードを出すっていう意味で、こういう感じでっていうのがあるんだけど。例えばオペラっぽくだったりとか、今回はそういうのがないね。
miqui: ないよね。一番最初にそれを言われたもん。私「どう歌ったらいいの?」って訊いちゃったの。レコーディングの時に。したら「もともと自分がバンドを始めたときに、やりたいと思ってた歌い方って何?」って言われて。それかぁ!って思って。
eno: ああ~
miqui: NOW PRINTINGからそうなったのかぁ!って思って。それまではどうしても、さっき言ってたさぁ、オペラっぽくだったり、ブルガリアンボイスっぽい感じだったりとかって言われてたんだけど、今回は「自分の好きなのやっていいよ!」みたいな…
eno: まぁ、真っ白なアルバムの通り、まっさらだよね。何の制約も無い。
miqui: ほんとそう。
eno: ジャケットの制約すらないんだもん。
sugiura: ははは(笑)
eno: 今は、始まったばっかって感じかな。一周(時計が)まわって、今、5分くらい。
sugiura: ビートルズだとさ、ジョージ・ハリスンとかがさ、インド楽器を持ったりさ、

ジョージ・ハリスン:ビートルズのメンバー。リードギター、コーラス、ボーカルを担当。自作曲も20曲以上発表している。また、各種楽器の導入にも積極的で、初期においては12弦のエレキギター、中期にはインド楽器のシタールを取り入れ、後期には初期の型のシンセサイザーをいち早く導入。また、楽器に留まらず、インド音楽とロックの融合を試み、ソロアーティストとしても高く評価されている。

eno: あぁ、ホワイトアルバムとかからか。崩壊が始まったんだよな。

ホワイトアルバム:本当のタイトルは「ザ・ビートルズ」。白一色のアルバムジャケットのため、グループ名と区別するため「ホワイトアルバム」という通称で呼ばれている。2枚組30曲入り。現代音楽の全ての要素が詰まっていると評されるほど、多種多様な楽曲が収められ、「ソロ作品の集合体」と評されてもいる。

miqui: そうなんだ。
eno: あそこでみんな、相思相愛のパートナーができて、各々インド行ったり、ジョンもオノヨーコにどっぷり浸かったりして、で、スタジオ来るのにもパーソナリティを持ち出して、素の自分で来るようになっちゃったから、実際。
sugiura: バンドとはいえなかったよね。各自のソロ曲みたいなね。
eno: そのせめぎあいの殺気たるや、すごいよ。ツェッペリン(LED ZEPPELIN)はずっとそれでやってきてたけど、なぜかそれでもまとまってた。ビートルズはポップで、期待もでかかったし。

ツェッペリン(LED ZEPPELIN):sugiuraがこよなく愛する、イギリスのロックバンド。幅広い音楽性と独特のグルーヴ感、また即興演奏を得意とし、ビートルズと比較されるも全く違った方法論でロック界を賑わせた。ブルース、フォーク、トラッドをはじめ、民族音楽、ファンク、サイケデリックな要素も取り入れ、その音楽的独自性を貪欲なまでに高めた。miquiの演奏するテルミンも、ギタリスト・ジミーペイジの使用しているものに限りなく近いモデル。また、ハインリヒのシンボルマークもジミーペイジのマークを彷彿とさせ、見間違うほど似たデザインになっている。初期のロゴに使用していたフォントも、ツェッペリンが使用していたもの(現在はSTAR TRECKに変わっている)。sugiuraが一時期使用していたダブルネックギターも、ジミーペイジの影響からであり、SGOST-SpectralGeneOriginalSoundTrack-に収録された「暗躍されて」は、ツェッペリンの楽曲「幻惑されて」を文字ったものである。など、ハインリヒが影響を受けたバンドの一つである。

sugiura: いわゆるアイドルというスタートラインがあったからね。
miqui: そうだよね。
eno: ジョンとジョージはどっか行っちゃったからな…
sugiura: よく年配の人とかはさ、ビートルズにやられ尽くされてるっていうじゃない。
eno: 音楽のあらゆるジャンルをやりつくされてるという。
sugiura: そう。確かにジョージハリスンの曲とか聴くと、ドラムンベースの原点とかやっていたり、歌のフィードバックとかね、リバースとかやってたりして、すげぇなって思うのよ。そういう風にも言いたくなる気持ちも分かるんだけどさ。でも「全部やられつくされてるって、本当にそうか?」っていうさ。そのところから入っていかないとやっていけないし、面白くないじゃない。
eno: そうだよ。だからそれ以降、みんなコピーになっちゃってるわけだから。
sugiura: もちろん、リスペクトの意味合いから「やられつくされてる」って言ってるのかもしれないけど。でも、やってるほうの身からすると「本当にそうか?」っていうところから入らないとさ。
eno: オレら、ゆーてもアナーキーだからなぁ。人とおんなじことやりたくないし。「Napalm Death」とか今更持ち出してやってるから。
sugiura: そうそう。
miqui: はは(笑)

sugiura: なんかさ、やられつくされてるとかさ、音楽は、なんていうのかな…音楽というカテゴライズされちゃってるものだと思っちゃうとだめじゃない。
eno: そんなつまんないことないでしょう。
sugiura: そうでしょ?だから…
eno: バンドいらないもん。みんな何か、がむしゃらに何故かインディーズが自分のもの作ろうとしてるけど、結構「ポップス」って壁と「メジャー」の壁に阻まれてやめていっちゃうじゃない。
miqui: そうだね。
eno: 特にCD売れないし。だけど同時にさぁ、ものすごいコアでアングラなところに特化したインディーズレーベルがすごい評価受けてたりするじゃない。
miqui: そうだね。
eno: ね。未だに、「死ね死ね団」とかさ、本当にコアなファンがいるわけよ。「あぶらだこ」とかさ。
sugiura: 「あぶらだこ」、いいね。
eno: でも彼らは絶対ポップスが大好きだし、逆に、自分らのやりたいことを全部かなぐり捨ててポップスはポップスって割り切ってやってる「スピッツ」もいるしさ。リハーサルで「メタリカ」弾いてるわけじゃん。
miqui: そうだよね。
eno: そういうバンドが両方あっていいよね。メインフレームと、もうすっごい下のほうでゴチャゴチャ好き放題やってる…奴らは絶対メインフレームは羨ましいよ。絶対。「マキシマムザホルモン」のこと、羨ましいでしょ。ポップスバンドは。
sugiura: やられつくされてるっていうのがさ、諦めではいけないと思うしさ。要は実験だと思うんですよ。ライブとか、レコーディングって、常に。
miqui: ハインリヒは最初からそうだもんね。
sugiura: 「この青と赤のビーカーをさ、混ぜたらどうなっちゃうんだろう?」っていうところから始めないと。
eno: サントラ作りはいわばマニュアルがあるもんね。プラモデルにもマニュアルがあって…
sugiura: まぁそのゴールラインに向けて構築していく作業だもんね。それはそれで違う自分が引き出されるという意味で面白いんだけど。
eno: 勇紀くん(sugiura)は「足」から組んでいいか「手」から組んでいいかは決めていいけど、最後の完成図は一緒なわけじゃん。
sugiura: ゴールは決まってるよね。
eno: ディレクターの指示。今回はほんともうマニュアルもクソもないもんね。
sugiura: ゴールも無い。
eno: 一からスクラッチしてるからね。
sugiura: だから、どこをゴールにするかっていうのが難しいところなんだけどさ。

【3】sugiuraの竿の秘密と名言「ドラムさえよければOK」へ続く…


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