Talk w/z 珠子【2】

【2】プロの定義~趣味とアーティストの違い~

趣味を否定しているわけではなくて、それはそれでよくて、だけどやっぱりモノを作るっていうことは違う。(珠子)

miqui: 逆に、例えば映画とか、映像を実際に見て、何か触発されて、作品を作ったことってありますか?
珠子: 映画とか、映像…映画とか映像は…元々映像をやりたかったので…
miqui: あっ!そうですよね!
珠子: 映像で浮かんできてしまうので、それを見てというのは、逆に…(ない)
miqui: そっか!そうでしたよね。映像を作っていらした!その経歴も私、面白いなぁと思って。映像は人形を作る前から?
珠子: そうですね。映像が先にあって、そのモチーフとして、人形が面白いかな?って思って、人形を作って…っていう。
miqui: そうなんですよね。そうだ。そうだ。だから空間プロデュースというか、
sugiura: 立体的に物事を捉えてる。
miqui: そうなんだね。
sugiura: 音楽って実はその表面だけではなくて、その背景であったり、空間というよりももっと立体的なものだと思うんですよ。だからもしかしたら聞き方がどっかしら違うのかもしれない。いい意味で。
miqui: え?どゆこと?
sugiura: その曲にある、見落としがちなデテールでも、キャッチしてくれているかもしれない。例えば、物事って裏があるじゃないですか。例えば言葉があって、その言葉の意味ってどういうものかというのを噛み砕く能力というのかな。曲の中にもそういうトーンがあると思うんです。カラーとか。そのカラーの微妙なところですよね。その合わさったところというか、微妙なところを感じ取ってくれているんじゃないかなっていうのがあります。
珠子: 私あんまり音楽とかに詳しくないので、本当にただ単に好きかどうかだけの判断だし、そんなに色んなものを聞いてるわけでもないので、そんな風に言っていただくと気恥ずかしいような。ただ確実に自分に合うものと合わないものとには敏感ですね…私、ダメな音っていうのがあって…
miqui: ありますか。
珠子: うるさいのが基本的にダメなんですよね。
miqui: ええっ!ほんとですか!?
珠子: なんか音が多くて重なりが激しいのがダメで・・・身体に合わないみたいで。
miqui: あ!じゃあ次回作ダメかもしれない!(笑)
珠子: ほんとですか!(笑)
sugiura: (苦笑)
珠子: でも、絶妙に、同じように聞こえるけど、コレは大丈夫!っていうのもあるので、杉様(の楽曲)なら大丈夫じゃないですかね(笑)
miqui: (笑)わかります。そういうの。結構力任せな感じの曲でしょ?違うのかな。
珠子: 例えば、色と色があって、人にもよるんだろうけど、「この色とこの色の組み合わせはどうなんだろう…?」というのを平気でやれてしまう人と、パッと見は同じかもしれないけど、近づいてみると、実はすごい繊細な作業の上に成り立っていて、なるほどな、と思わせてくれるものとの違いというか、なんというか…
miqui: なんかわかる。うんうんうん。
珠子: 私は音楽を聴いていて、すごくそれを思うところがあるんですよ。これはなんか、あまりにも平坦で、パッと見はノリよくて、いいのかもしれないけど、なんでこう、ニュアンスが無いの?っていうのが…そういうのがあったときになんか「うわー」って。それが聞きづらい曲ではないのかもしれないけど、私には「うわー」ってなっちゃう。
miqui: それね…私フエルトを…羊毛フエルトで人形を作ったりするのが好きなんですけど、

羊毛フエルトで人形: 羊毛そのものを、特殊な針で刺し続けることにより、フエルト状になる。それによって形作る人形のこと。左の写真はmiquiが実際に作った、その名も「ハインリヒベア」の「PUNK(プンク)」。デザインはsugiura。
【関連サイト】
>>ハインリヒ・ベアを作ろう1(miqui)(blog:Heinrich Von Ofterdingen)

珠子: わぁ!ほんとですか?私お菓子作りますよ。
miqui: スイーツ!あれ超可愛いですよね。
珠子: うん!あ、ごめんなさい!
miqui: あ、いいんです。それでね、黒を…黒って結構強い色じゃないですか。で、黒そのものを使ってチクチクやってもいいんですけど、やっぱり黒とか赤とかを使うときは、他の赤を混ぜて、馴染ませていくと味わいが、風合いが出るじゃないですか。そういうことに近いというか。
珠子: そうですね。
miqui: 近づいてみてやっと、「あ、これ毛の色が混ざってるんだ!ミックスされてて黒になってるんだ!」っていうのと、ただ黒だけ使ったっていうのと、ちょっとニュアンスが違うと思うんです。パッと見は同じなんだけど、そういうことなんじゃないかなって。
珠子: そうですね。それが本当にハマると思ってやっている場合と、単純に見えてない・分かっていないという場合と、分かっていながらも楽だからやっちゃってるっていう場合と…色々あると思うんですが、その「楽だから」とか「まぁとりあえずやっちゃえばいいや」っていうのを感じた時に、結構…
miqui: 見えちゃったときね(笑)
珠子: どういうつもりでやったのか、本当のことは、私には知りようもないんですけど。なんかもう「ううぅっ」って。
miqui: はは(笑)「うううううぅっ」
珠子: 本当にハマると思ってやっているなら、感覚の違いとしか言いようないですけど、分かってないとか楽だから…とかは…それでプロなんだー…とか
miqui: (笑)
珠子: ちょっと思っちゃう部分があったりして(笑)
miqui: なるほどねー。バレるんですよ。音楽って。多分。ステージとかに、出ちゃうんですよ。心が。
珠子: ライブはきっと特にそうですよね。ライブの場合、その時のテンションで、良く聴こえる場合もあると思うけど、CDだと、良くも悪くも、ちょっと削がれるじゃないですか。そういう風になったときに、逆にバレちゃう部分があると思う。
miqui: ああ。音に。雰囲気というか、念というか。念は、音楽には、出やすいなぁとやっぱり思う。解散間際のライブとか、分かりますもん。
珠子: ほんとですか!
miqui: そのライブが終わって、「今日ラストライブでした」というMCがあったりして「ああ、そう・なん・だ!やっぱり!」って。

自分が納得いかないというのが、一番つらい。結果、誰も幸せになれないから。(miqui)

sugiura: ハインリヒの音楽って、基本は常に「実験」なんですよ。ようするに、今までやったことのない手法を、必ず一曲の中に一箇所はやってみようという。意識的にやったことのない手法であったり、使ったことのない楽器を入れてみたり…ということをやることによって、何か面白いものができないかな?というのがあって。うーん、既にある音楽を構築している人達っているじゃないですか。「別にそれ、ビートルズでよくね?」ということがあったり、「別にそれメタリカでよくね?」というのがあったり。そのオリジナリティに対する考え方ってまちまちだと思うんですよ。もちろんそういうものを、ある程度追尾することによって、生まれる「分かりやすさ」であったり、良さであったりというのは勿論あるとは思うんですけども、それ+α、何か新しいテイストがあれば、新しいものを作る意味が、そこにあると思うんですよね。
miqui: ジャンルとかでしょ?何っぽいの?とか…例えば、初対面で、どこかで出会ったときに「音楽やってるんですよ」って言った時に、「え?どういう音楽やってるの?」って言った時に、「ジャンルは?何っぽい感じ?」って絶対言われるじゃないですか。それがやっぱり一番…特に青い花なんて、何っぽいって言われても…(似たような感じのものが他に)ないし。
sugiura: いわゆる問屋、流通会社の人に、音楽の面白さを伝えるっていうのは、すごく難しい作業で。既にバンド名からして分かりづらいじゃないですか、うちは。もうその時点で、脱落者が多いと思うんですよ。
珠子: 確かにある意味「キャッチーさ」が大事な部分てあるじゃないですか。それも分かるんです。そうですね、でも、「でも」っていうのがありますよね。
miqui: そうなんですよね。キャッチーさ。やっぱり人形の世界でも、ジャンルとかってあるんですか?何系とか。
珠子: 最近はどうなのかよく知らないんですが、ちょっと前はゴスロリとか流行ってましたね。見てくださる方も、そういうのを好む方が多かったように思います。素材的に、ビスクが人気みたいで、そうなると必然的に同じようなものが出来上がる(ビスクは型に鋳込んで作るので)。そういう意味でも、同じようなものを作り続ける人の方が多い…かな。私が知らないだけかもしれないけど、色々作る人、というのはかなり少ないように思います。私は色々なものが好きなので、色々作ってしまうんですが、そうすると、なんか「分かりにくい!」みたいなこととか、言われたりとか。
miqui: はぁ(息を吸う音)!うちまさに!ほんと…すっごい…「NOW PRINTING」あるじゃないですか、今回の。これも、「バラエティに富みすぎて、何をやりたいのか分からない」という意見もあったんですよ。逆にとれば、バラエティに富んでて、分かりにくい。
珠子: コインの表と裏みたいなものだと思うんですよね。同じ1つのことでも、引き出しが沢山で面白い!という意見もあれば、散漫としすぎて何だかよく分からない…という意見もある。見方ひとつで全然変わるので、自分がよければいいのかな?って思っちゃうことには、しているんですけど。
miqui: それが一番ですよ。自分が納得いかないというのが、一番つらい。結果、誰も幸せになれないから。
sugiura: そこで、面白さをキャッチできる人しか、キャッチできないと思うんですよ。僕はそれでいいと思う。
珠子: そうですね。私もそう思います。
sugiura: だって、そういうものを作っているんだから、っていう。さっきも言ったけど、既にあるもの、同じようなラインのものを作って、果たして意味があるのか?って思ってしまうし。
珠子: そうですね。なんていうか、趣味に近い感じがしますね。例えば、何かモノを作って…既にあるものだけど、自分でも作りたいっていうのは、ただ作る楽しさというのもあるじゃないですか。
miqui: うん。ありますね。
珠子: それって、趣味止まりっていうか…なんだと思うんですよ。趣味を否定しているわけではなくて、それはそれでよくて、だけどやっぱりモノを作るっていうことは違う。
sugiura: 違いますよ。この世の中に無いものが欲しいわけだから、そのワンアンドオンリー、ワンオフのガレキ(ガレージキット)みたいなものですよ。こう、無いからこそ、作ろうと思うし、作るモチベーションが出てくる。まぁもちろん、ポップスやロックをコピペしているような音楽を作っている人を否定するわけではないけど…生きるために(ごはんを食べるために)音楽やっている人もいるわけだから。

ワンオフのガレキ(ガレージキット): ガレキとは、プラモデルによく似ているが、大量生産される玩具メーカーのものではなく、アマチュアが限定的に制作販売するフィギュアのキットのことを差す。ワンオフとは、二つとないものの意。「特注一点モノ」「オーダーメイド」と同義。つまり、世界でひとつしかないもののことを差す。ちなみに英語の”one-off”から来た和製英語。日本では「一度で終了」という意味で使われているが、英語では「使い捨て」の意味なので注意。

珠子: そういうのも分かるので、何とも言いがたい部分はありますね。正直、同じ作家という立場にいても、本当にモノを作っている人と、そうでない人といて、そうでない人のほうが多いのかな?って思うときがありますね。本当にモノを作っている人は、なかなか、やっぱり…勿論これは私の勝手な解釈にすぎないんだけど、貴重だなって…。だから、こうお二人にお会いするととても嬉しいというか…
miqui: いやいやいや…その、なんとなくやっている方っていうと、本腰入れて…というかアーティストとしてやっているという方の、一番最大の違いって何ですか?
珠子: うーん、なんでしょうね…。なんでしょうね。
miqui: ね。うちもね、結構好き勝手やっているから、趣味だって言われちゃえば言われちゃうんですよ。アカデミックなことを、例え今までそのゲームのサントラやっていたとしても、今現在は、依頼を受けて、例えばどっかのデカいレコード会社に入っていて、そこにお金を出してもらって、出資してもらって音楽を作ってるわけではないから、自由にできるじゃないですか。で、そこだけをパッと見ちゃうと、「何?なんか自分達が気持ちいいことしてるだけじゃん!」っていう風にも思われがちというか。そこで「いや、でもうちはプロでやってるんですよ」っていう風に、言い切れないというか…なんていうのかな。わかります?
珠子: わかります。その微妙な…もやもや…
miqui: 趣味じゃん!って言われたら。大人からすると、そういう風に見られがちというか。
珠子: その人の定義にもよるんでしょうけど、例えば、「それでごはんを食べているなら、プロ」とか、
miqui: そうですね。
珠子: それで分けるんだったら、例えば、特に普通のアート的なものに関して言えば、ほぼ、いない(作品を売ったお金だけで生活している人と限定した場合)わけですよ。そうしたら、みんながみんなプロじゃ、ない。じゃないですか。
miqui: (笑)
珠子: プロがいない世界なんですよね。
miqui: この話、面白いね(笑)

なんだかしらないけどやってしまう!っていうのは、それは趣味を超えているのかなって(珠子)

sugiura: それがあれだよ。それが定義だとしたら、ゴッホはアマチュアだったってことになっちゃうもんね。
珠子: 今やすごい巨匠の方々もそうなっちゃうんですよね。例えば小説家でも、宮沢賢治は学校の先生とか色々しながら、書いていたわけじゃないですか。その定義でいくとあの人も、
miqui: (笑)
珠子: …アマチュアになっちゃうんですよね。なので、その定義って違うと思うんです。一つの目安としては確かにあるけれども、それはまたちょっと、
miqui: ちょっと違うのか。
珠子: それは極端な定義であって、絶対ではないって。やっぱね、趣味とか色々言われることもあるので、趣味とアマチュアとプロの定義については時々考えるんですね。その時々によって、「ああ、こうかな」って思ったり、色々するんですけど、確かにその「ごはんを食べていけるか、いけないか」というのは目安の1つ。あと「楽しくないときが来た時に、それをスパッと辞めれるのかどうか」。
miqui: 辞めれるというのは?
珠子: 楽しくないことが来た時にも、楽しいだけじゃなくても、「やろう!やりたい!」という意志とか、「やらずにはいられない」衝動が自分の中にあるのかどうか。というのも、あるのかなぁ?って思ったりして。なんかもう、つまんなくなっちゃったなぁ~って辞められるんだったら、それは趣味止まりだったんだと思うんですよ。
miqui: ああ…
珠子: 何かが来た時でも、でもなんだかしらないけどやってしまう!っていうのは、それは趣味を超えているのかなって…思うんですよね。
miqui: そこだ!それだ!それだよ!!それだと思います!
珠子: 楽しいことが前提なんですけど。それはプロの人でも。楽しくなきゃ絶対にいいものは作れないって思っていて。
miqui: それですね。何とか乗り越えようっていう向上心?
珠子: まず、辞められないと思うんですよね。
miqui: 分かる!分かっちゃった!
sugiura: 逆にやってればこそなんだと思うんですよね。そのタイミングにさ、例えばゲームの主題歌が来た時に、自分が活動できているかどうかじゃないですか。もし活動できていれば、それをリリースすることもできるけども、そこのモチベーションがないと。あるいはテンパってしまったりすると、ね、できなくなっちゃったり。
miqui: そこだ。私はどうしてもプロっていうのは「お金をもらってやっている」というのがプロだと思っていた部分があったんですよ。
珠子: うん。
miqui: 例えば、変な話ね。自分達のオリジナルアルバムを出して、そのお金が、自分らの生活できるほど入ってこなかったとしたら、それはプロじゃないのかな?って。それだけの定義で考えると、どうしても行き詰るところがあるじゃないですか。でも、確かに、このことをやっていないと生きていけないくらいの思いで、私は音楽をやっているんですよ。音楽をやっていなかったときに、辛かった時期があって…(音楽を)やりたいのに出来ないという時期があったので…例えば、自分は歌えるけど、作曲するやり方が分からない…何をどうしたらいいのか分からない。音楽をやりたいけど、出来ない。やり方がわからない。とか。その時点ですごく苦しんだので…で、その時すでに結構いい歳だったんですけど…そういう風に悩んでいた時期があったから、もう「辞める」っていうことが、この先、一生考えられないんですよ。ライフワークとして、例え趣味と言われようが、続けていくことは絶対に辞めないって思っているから、そこなのかな。意識っていうのは。でも、そうだよね。宮沢賢治って本当にそうですもんね。学校の先生だったわけですもんね。
珠子: そうなんですよ。なので、一概に、その「食べているかどうか」だけでは、片付けられない。
miqui: なるほどなぁ~。
珠子: って、今度から、言われたら言おうかな。って頭の中で、理論武装をするところがあって(笑)考えたりとかしちゃうんですよ(笑)
miqui: (笑)でも、大事!色々考える。ものを作って、まぁ、黙っているのもかっこいいかもしれないけど、自分の中では何か思っていることは、絶対に作品に出てくるし、音楽なんて…歌もそうだし、出てくると思うので、こうやって人と話をして、色々考えたりするのも、ものすごく栄養になる。
珠子: なりますね。
miqui: なりますね。本当にありがたいなと思います。

【3】仕事とお金、作品の強度へ続く…


Talk List【全6回】
※掲載の写真はすべて、珠子氏によるものです。


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