Talk w/z 珠子【1】

【1】音から見えるモノ、モノから聞こえる音

見る人にとっての、想像力の伸びシロみたいなものが、あるんですよね。与えてくれているものが。(miqui)

(プライベートな会話がしばらく続き…)
sugiura: 青い花(1stアルバム「落落磊磊」のジャケ)の時に、人形の写真を提供してもらって…それがとても、よかったです。
珠子: こちらこそです。ありがとうございます。
sugiura: なんていうか…
miqui: …ちょっと私、言っていいかな?私、すごい残念だったのが、その前に漂流記あったじゃないですか。

漂流記: Heinrich Von Ofterdingenの楽曲。正しくは「漂流記~静かの海~」。青い花で活動していた二人が、改めてHeinrich Von Ofterdingenとして活動を再開。その際に制作した楽曲の中から、Heinrich Von Ofterdingen復活第一弾マキシシングルとしてリリースする予定だったが、PS2スペクトラルジーンのエンディングテーマに採用されたため、リリースは無しに。音源は「SGOST-SpectralGeneOST-」に収録されている。
⇒CD詳細はこちら

漂流記にも珠子さんの写真(ジャケに)使って、シングルかマキシのCDを出そうとしていた時期があって、あの…河童の(お人形の写真)…。そのあとすぐ、ゲームのエンディングテーマに決まったので…(CDは出せず)…なんかほんと申しわけないというか残念というか…。
珠子: いえいえ、お気持ちだけで、とっても嬉しいです。

河童の(お人形の写真):正しくは「河に棲む者」。珠子氏による2004年の作品。「漂流記~静かの海~」をリリースするため、ジャケットに珠子氏の写真を使用し、CD制作をしていた。左の写真は制作していた幻のジャケット。その後、同じ作品の別テイク写真が青い花の1stアルバム「落落磊磊」のジャケットに使用された。

miqui: でも、それがあるからこそ、自分の中で、なんというか…(珠子さんの作品)本当にいいな!と再確認した部分があって。で、こないだのアリス展も最高だったし…
珠子: ありがとうございます。

アリス展: 銀座の銀座人形館/Angel Dollsで2010年9月17日(金)~9月23日(木)に行なわれていた「Alice in Ginza ~At Angel Dolls~」のこと。左の写真はmiqui撮影。
【関連サイト】
>>Alice in Ginza(LOVE ME / miqui’s blog)
>>銀座人形館/Angel Dolls

miqui: ほんとに。何が…。ちょっと…あれ?私喋りすぎ?
sugiura: どうぞ。
miqui: 何が、本当に素敵だなって思うかというと、人形だけをバン!と作って、終了じゃないところなんですよね。そのディテールの細かさだったり、持っているもの、身につけているものとか、世界観とかが、すべて一つの作品として…
sugiura: コンセプチャルだよね。
miqui: うん。あの、音楽に例えると…例えばなんですけど、シングル曲をバン!と出したりとか、アルバムを出すのにも、曲をバンバンバンバン!って作って「ハイ終わり!」みたいな感じではなくて、アルバムひとつで完成してる。時間の流れがちゃんとあったりとか、空気を感じたり、人の心の動きをはかって、曲順を並べたりすることに、すごく近い。音楽的な要素に近いな、というのがあったのね。で、こないだ特に思ったんですよ。その芝…森の感じだったり、空気感だったりというのが…そこを切り取って持ってきちゃいました!っていう…周りを想像できる。ケニーさんで言うところのモノクロ(写真)で、見た人が色を想像できるというのと同じで…そのサービス精神というか、見る人にとっての、想像力の伸びシロみたいなものが、あるんですよね。与えてくれているものが。その優しさというか…なんかそういうものを感じるんですよね。自己満足で終わっていないというか。
珠子: ありがとうございます。
miqui: わかるかな~。私上手く伝えられないんですけどね、ほんとに!ほんとにすごいなって思っていて…。
珠子: うれしいです。
miqui: ほんとに思いますね。奥行きを感じる作品だなって。
sugiura: 特に河童はすごかったよね。河童は…ロケだもんね。
珠子: うふふふ。
miqui: そこなんだよね!自分で、それをフイルムに収めているっていうのが…そこまでやって、ひとつの作品。それがすごいなってやっぱり思いますね。そのこだわりというか、なんだろう、そうぞう力。「想像」するほうと、作るほうの「創造」、両方なんですけど。それが、パワーがあるんだなと。思います。すごくいいショックな、いい影響を受けますね。見るたびに。です。すみません、なんか、堰を切ったように話してしまって!
珠子: いや、お二人を本当に尊敬しているので、そのお二人と、まずこうしてお話できることが凄く光栄ですし…
miqui・sugiura: いやいやいや…
珠子: 呼んでいただけて本当に光栄です。幸せ者です…
miqui: そんなそんな!尊敬とか無しでいきましょう!ほんとに!あの…お互いに、いい刺激になればなと、思っているので…
珠子: そうですね。ハイ。
miqui: ハイ。

珠子: 私は、ものを作るときに、情景がもう頭の中にあるんですね。それを再現したくて作るので、私が見ているこの景色を作ろうという思いが、人が作品を見たときに逆に情景として投影されるのかな?と。だから、そこまで汲み取ってくれるんだっていうのが分かって、私は今すごく嬉しいですね…
miqui: よかった。よかった!それね、多分私も逆にされると嬉しいんですよ。こっちがこういう風に聞いてもらいたいとか、こういう意図で楽曲を並べたりしたというのを、ちゃんとそういう風に受け止めてくれる人がいると、助かる。次の原動力になりますよね。
sugiura: 結構ずっと作品作っているんですか?
珠子: そうですね、途中ちょっと具合が悪い時があって、ここ数年は…調子がいいときに、途中だったものをちょっとやる程度で…。で、あえて身体を休めるようにして、気持ち的にはすごく作りたいんですけど、そのままに身体を酷使すると、多分その後が…作りたいときに、もう身体が言う事をきかない気がして…。よりパワフルに作るために、結構思い切って、というか頑張って、休んだんですよね。
miqui: そうなんですか!
珠子: その時期が長く続いて、ある意味つらいというか、なんというか…
miqui: ジレンマですよね。
珠子: ジレンマですね。がんばらないことを頑張るというか。それが、結構最初は…逆に休まらないというか…。でもそれを乗り越えないと、いい身体にならないと思って、休むようにして。だんだんちょっとコツをつかんできて(笑)休めるようになって。最近は本当に、多分、大丈夫。疲れたら勿論休むんですけど、その休みどころを分かるようになったというか…
miqui: そうですよね…休まないとね。
sugiura: 何かモノを作るということは、何をもって完成させるかというところがあるじゃないですか。曲書いていてもそうなんですけども、やろうと思えばいくらだって出来ちゃうんですよ。締め切りギリギリまで詰めちゃって。ようするに「これでいい!」と思えるポイントを自分で気付けるかどうかというのが結構大事な作業で。多分、その人形とかも同じなんだと思うんですよね。もう無限ループみたいなところに突入してしまうと大変だろうし。
miqui: 無限ループになること、あります?「なんか違うなぁ…」みたいな。
珠子: 違うなぁと思うことはあるんですけど、でも基本的にはなんとなく…割と大丈夫ですかね…私は。
miqui: あ、じゃあ、想像したものを、結構すぐ具現化。
珠子: 多分、今限界か、もしくは、もう無理かのどっちか(笑)
sugiura: あぁ、でもそれは大事ですよ。そのポイントの見極めが出来る人が、やっぱり完成させられる人だと思う。じゃないと、世の中に出すことができなくなっちゃう。

miqui: こないだも話してたけど、やっぱり一人で何かものを作るモチベーションってすごいと思います。
珠子: そうですかね。そこは!やっぱり一人しか経験したことがないので、分からないんですよね。(笑)
miqui: そうなんですよね!(笑)まぁね…人数が増えれば増えるほどまた難しい面も増えてくるし…うーん。それももちろんあるんですけど。いやぁ、すごいなぁと思う…悩んだ時とか…悩んだ時とかは違うのかなぁ?どうなんだろう…なんだろうなぁ。…やってて、「どうしたらいいのかな?」って思うことってないのかな。「どうしたらいいのかな?」って思っちゃったら、やらないってことになるんですかね?
珠子: これは…本当は言っていいのかわからないんですけど…(笑)
miqui: (笑)
珠子: あまり…悩まないんですね。
miqui: でもそれ、才能ですよ。
珠子: そうですか?
miqui: 私それ欲しいもん。悩まないというのが一番難しい。私は、そうです。難しい。うん。
珠子: 作ることに対しての悩みは無いんですけど、他の!作ることに付随する様々な…なんか色々あるじゃないですか。別の問題。あっちが!「あぁー」って(笑)
miqui: そっちだ!(笑)
珠子: そっちがつらくて!作るだけでいられて、誰かが
miqui: マネージメントとかね。
珠子: そう!やってくれたら、どっんなに楽か!っていっつも思います。
miqui: その展示会とか、販売とかの…ですよね?
珠子: そういうすべてを任せちゃって、自分はものを作ることに専念したり、気が向いたときだけ何かしたりとか、楽しくお話できる人といたりとか…もうそれだけで…いたい…(笑)
miqui: (笑)そうですよね。お金のこととか、一番ね、大変ですよね。
珠子: 前に、同じ人形作家の方とお話したことがあって。結局、ひとりでやるということは、自分が社長で、生産者で、営業じゃないですか。何役もこなさなきゃいけない分、大変だよね、という話になって。本当、そうだよねって。
miqui: 本当そうですね。一番難しいし、ダメージを受けやすいし、デリケートな部分…
miqui・珠子: ですよね。
sugiura: だからこそ、自分から発信させるものができるというメリットは、あったりも。
miqui: 逆にその、
sugiura: そうそう、オファーを受けたりすると、その…
miqui: 間に入ってる人の意見が…
sugiura: こういうものを作ってくれと言われて作るのと、自分がこうしたいというものを発信するのでは、違ったりするから。
珠子: そうですね。だから何がいいとは一概にはやっぱり言えないと思うんですけど…
sugiura: 一長一短ですよね。
珠子: うーん。そうですね。

通過地点なのかなって思って。いわゆる巫女的な。(shuko)

sugiura: しかし、一人でものを作るというのはすごいですよ。かつ、それで悩まないというのは。
珠子: そうですか?
sugiura: この前(お会いしたとき)も言ったかもしれないですけど、ものを一人で作った経験がないんですよ、僕は。で、多分自分自身のために、自分だけで何か作れといわれたら、きっと…なんだろうな…悩んじゃうんだろうな、やっぱり。
珠子: そうですか!
sugiura: 例えば、こういうドラマーがいて、こういうベーシストがいて、こういうボーカリストがいて、というのが、あくまでも最初にそこが見ていて、「彼らがやりたいことはなんだろうか」ということをまず考えていって。さらに「それを聞きたい人はどんなものが聞きたいだろうか」。で「自分自身もどんなものを作ったら楽しいだろうか」というのが、全部…総合的に作っていくので…。だから、多分一人で「何かやれ」といわれたら、本当に、目標そのものをロストしてしまうというか。だからそのモチベーションを持続させるエネルギーはすごいなと。
珠子: 私、これも言っていいのかどうかわからないんですけど、例えて言うなら、どこか違う世界に連れて行かれたときの景色や会った人とか、それがすごく素晴らしくて、もう、見えているんですね。どこか違う世界のものが。ただ、私はそれを、なぞっているだけというか…
miqui: はぁ…(息を吸う音)へぇ!
珠子: 自分自身がものを作っているという感覚はないんですよ。単なる…
miqui: すごい!
珠子: 通過地点なのかなって思って。いわゆる巫女的な。
miqui: うん。わかる。私、そういう時期がありました。
珠子: ほんとですか!
miqui: でも今も割とそうかな…
sugiura: うん。そのいわんとしている感覚は分からないでもない。
miqui: すごいわかる。
sugiura: 実は曲とかもそうで、
miqui: この人(sugiura)、そう。
sugiura: …最初の数小節できると、そのあとは曲が勝手に育っていくというのがあって、
miqui: 考えてないでしょ!?すごい早く出来るから…
sugiura: 「考えてないっす!」って言っていいのかはわからないけど、これちょっと問題発言かな(笑)
珠子: そうそう、そういう事を言うと、「えー!?」って言う人もいるので…だからちょっと…あんまり言いづらいというか…
miqui: そっかそっか、微妙な…
珠子: 「悩みながら作っているのに…」って言う人もいるので、普段はあまりこういう話はしないようにしているのですが。でもお二人とは感覚が近いような気がして、つい話してしまいました(笑)
miqui: なるほどなるほど。

重ね合わせた時に、ミラクルなものが出てくるというのは、理想的な音楽の有り方だなと。(sugiura)

sugiura: 最初の、アイデアが出てきたときの楽しい感じってあるじゃないですか。その感覚を信じてやるしかないと。
珠子: そうなんですよ! その楽しい感じっていうのが、私は音楽を聴いてる時にでてくる事が多いんですね。「あ!すてき!」と思って、それをただ出すだけ、みたいな。
miqui: すごい!
珠子: なので、そこに、何か辛さとか、苦しさとか全く無くて、「あぁ、またいいもの見せてもらったな」って。みんなにもこの景色を見せたい!というのと、ただ単に自分が、(作品として形にすることで)生の目で見たいという・・・ただそれだけというか(笑)
miqui: (爆笑)「いいもの見せてもらった」…(笑)すごいね。聞いてるのに「見せてもらった」というのがすごいですよね(笑)
珠子: ああ!
miqui: でしょ?映像として…なるわけですもんね。
珠子: そうですね。お二人の、ライブとかでも結構なんか、(頭の中でイメージが)ウロウロしていますよ。出てきてますよ。
miqui: ええっー!?すごい…
珠子: 例えば、ちょっとアレンジが変わってるとかあるじゃないですか。同じ曲でも。それっていうのが、私にはこう「あ、音を変えたんだな」っていうよりも、イメージ…絵が変わるんですね。絵が変わるから「あ!変わったんだ」って思うんですよ。
miqui: すごい!面白い!
珠子: そういう感じなので…あと自分の体調とかも色々そういうのもあるんでしょうし…ライブが面白いのは、そういう風に毎回ちょっとずつ違ったりもするのが…すごい面白いです。
sugiura: そう言ってもらえると…
miqui: すごい!楽しみ方が…なるほどなぁ。
珠子: 毎回違う、ちょっとずつ違う、素敵な絵を見せてもらえてるような気がして。
miqui: そうなんだ。
sugiura: そういうBGMとして聞いてもらえるのは嬉しいね。
miqui: そうですね…ん?BGMじゃないもん!後ろに流れているというよりも、そっちに行く通路みたいな感じですよね。そっちの世界に。
珠子: そうですね。通路なのか、鍵なのか…なんかそういう役目なんだと思うんですね、私にとって。
miqui: で、ぐわぁ~って、その世界に入って…入るというか、逆に、やってくるのかな?わかんないけど…
珠子: それはちょっとわかんないんですけど…
miqui: でもその映像が見えるというのがすごい。すごいなぁ。
sugiura: うん。

miqui: やっぱり思うのが、音楽を作ったり発信したりしていて、受け取る側(聴き手)のフィルターを通したときに、どう見えるかというのが、私も興味あるし、作ってて、…みんなそれぞれ違うんですよね。聴き所とかも違うし、感じる部分も違うし。いろんな人と話せば話すほど、「あ、そういうところに気付くのか!」とか「そこが面白いと思ってくれるのか!」と思うのが、面白いなって。十人十色、みんな違うから。
sugiura: 子供の頃に、イデオンっていうアニメーションがあって、それが好きだったんですよ。で、それはすぎやまこういちが音楽やっているんですけども、すごい衝撃的なオーケストラとか、オペラとかをその当時にやっているんですね。ドラクエよりも前の話なんですが。それで、すごい音楽があるんだなぁって思って。でも、もし、その音楽じゃなかったら、今こうして、その作品について語ることもなかったというか…音楽が何か記憶をとめておく、というところがあって。
珠子: ありますね。
sugiura: そういう風に、他のものと重ねあわせて、何かと音楽が一致するように覚えていてくれているというのが、すごい嬉しいですね。
miqui: ああ~
sugiura: だから、多分子供の頃に、そういうシチュエーションを味わったことがあるから、(自分が)そういうものを作ろうとしている部分がどこかにあるから、
珠子: なるほどね!
sugiura: だから、サントラの仕事が来た時も、正直「できるかな?」って思ったんですよ。でも「やってみよう」って思ったのは、多分それが根強くあって。
miqui: そうなんだ。
sugiura: だからゲームとか、あるいは写真でもいいし、それこそ人形でもいいし、それと重ね合わせた時に、ミラクルなものが出てくるというのは、理想的な音楽の有り方だなと。
miqui: あぁ、音楽単体ではなくて、何かと重なった時に生まれる、また別の何か…
sugiura: そうそう。
miqui: なるほど。
珠子: なんか、そうやって、いいものが連鎖して、生まれ続けていくといいなって思いますね。
miqui: そうですよね。ほんと。…だからね!私不思議なのがね、逆に!珠子さんの作品を見ると音楽が聞こえてくるのね!
珠子: (笑)
miqui: …のような気がするのよ!だから面白いなと思うの。音楽から、世界が見えてきて、その世界を私が見て、また違う音楽が聞こえてくるっていう…こういう螺旋が…
珠子: うん。

【2】プロの定義~趣味とアーティストの違い~へ続く…


Talk List【全6回】
※掲載の写真はすべて、珠子氏によるものです。


★ご意見、ご感想をお寄せください。メールフォームまたはtwitterのリプライからもOKです。ハッシュタグ:#HVO_NP